アートはユニクロの経営に生きるか? 柳井正が「才能」に投資する理由

ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長 柳井 正

ユニクロは海外で美術館とのコラボレーションにも力を入れてきた。米国のMoMA(ニューヨーク近代美術館)やボストン美術館、英国ロンドンのテート・モダンなどの美術館と、さまざまな取り組みを展開中だ。なぜ、カジュアル衣料のユニクロを率いる柳井正は、アート分野との連携を選んだのか。アート分野に投資する理由を聞いた。

なぜ、アートを買うのか

──アートに関するお話を伺わせてください。ファッションとアートの関連をどのようにお考えでしょうか?

ファッションもアートもどちらも美に関わるものです。ファッション・ビジネスとは、主観的な感性と客観的なデータを総合したものとも言えます。世界でファッション・ビジネスを展開している人には、美術品コレクターが多いのも偶然ではないでしょう。

LVMHグループ創始者のベルナール・アルノー、グッチやサンローランを擁するケリンググループの代表フランソワ・ピノー、GAP創始者のドナルド・フィッシャー(故人)は夫婦揃ってコレクターで、その息子夫妻も著名なコレクターです。

──柳井さんご自身もアートコレクターとして知られています。アートに触れることで、経営に生きてくるということはあるのでしょうか?

いや、そんなものはあるわけない(笑)。あったらバンバン買いますよ。単に好きだから買う。そういうことです。

──ユニクロとして、美術館との取り組みを始めたのはどういうきっかけがあったのでしょうか? 2013年にMoMAと、毎週金曜夕方の入館料が無料になる「ユニクロ・フリー・フライデー・ナイト」を始められ、16年からはテート・モダンとも同様の取り組みを展開されています。18年には、ボストン美術館が所蔵する日本の型紙コレクションを、ユニクロのTシャツ(UT)のデザインに取り入れ「UT KATAGAMI」を販売されました。

始まりはひょんなご縁からです。MoMAは、ショッピングエリアとして有名なニューヨーク五番街の53丁目にあります。近隣にはロックフェラーセンターやトランプタワー、セントラルパークもあるニューヨークを代表するエリアです。

そういうエリアにあるMoMAが、金曜日の午後4時から夜8時まで、入館料を無料にするプログラムを展開したい、ついてはスポンサー企業を探しているというので、当社が引き受けることにしました。

14年からは、MoMAが所蔵する現代アート作品をモチーフにした商品コレクション「SPRZ NY」を発表するとともに、当社のグローバル旗艦店であるニューヨーク五番街店で「SPRZ NY」のフロアを展開しています。

フリー・フライデー・ナイトと同様の取り組みは、テート・モダンとバルセロナ現代美術館(MACBA)でも始めています。テート・モダンは毎月最終金曜夕方の入館料が無料、MACBAとの取り組みは18年からで毎週土曜の午後4時から8時までが入館無料です。

美術館とのコラボレーションで、進出国でのブランド力を高める

──ユニクロが会社として美術館と関わっていくことの意義はどのようにお考えでしょうか?

ファッションもアートもどちらも美に関わるものですから、ビジネスとして関連性も相乗効果もあります。アートに興味がある人はファッションにも興味がありますから、お互いがお互いの店に送客しあうような関係になっていて、先方にも非常に喜んでもらっています。

ユニクロとしてスペインに初めて出店した「ユニクロ パッセージ・デ・グラシア店」は、MACBAから歩いて行ける距離にあります。

こうした取り組みは、当事者同士だけでなく、第三者からも非常に高く評価されています。特にMoMAとの取り組みは、米国でアートを推進するNPO法人「Americans for the Arts」が主催する、「BCA pARTnership Award」の17年の大賞に輝きました。この賞は、企業とアート施設との卓越した連携プロジェクトに対して贈られるものです。

また、美術館の運営には、その地域のさまざまな人や企業、団体が関わっています。MoMAやテート・モダン、ボストン美術館やMACBAのように地域を代表する美術館であれば、関わる相手も社会的地位のある人や団体ばかりです。

そうした美術館と一緒に仕事をすることで、ユニクロが地域社会の一員として認めてもらえることにつながります。ユニクロのブランドや店舗への認知度や信頼度も高まり、その地でビジネスを進めていくうえで非常に大きな意味を持つのです。

最終回は、ジョン・ジェイや佐藤可士和、元『POPEYE』編集長の木下孝浩などのクリエイターが、ユニクロに何をもたらしたのかを聞く(3月15日公開)。